弊社代表取締役 晴山暢彦のインタビューが、M&A Timesの特集ページに掲載されました。

後継者不在の小規模飲食企業を“尖った企業”に再生してM&Aへ

小規模案件のM&Aに特化
商工会議所も有力な情報源

中小企業の経営者が企業売却を検討したときに、真っ先にどこに相談すればよいのか。有力税理士法人の代表は「守秘義務を課せられている税理士が最適です。銀行に相談したら融資を一斉に引き上げられてしまいますよ」と話すが、M&Aアドバイザリー会社社長によると「税理士は、身売りされたら顧問先が減ってしまうので、M&Aに消極的な人も多い」。結論からいえば正解はないが、利害関係を回避する動機からか、経営者のなかには商工会議所に相談を持ち込むケースも多い。

テンポジンパーソナルエージェントは首都圏の主要な都市の商工会議所を訪問して、売却希望案件を発掘し、成約に結びつけている。金融機関、監査法人、税理士法人、アドバイザリー会社などのネットワークにかからない小規模案件のM&Aに特化しているのだ。

同社の設立は2016年。テンポスバスターズ(東京都大田区)とディースパーク(大阪市中央区)の共同出資で設立された。出資比率はテンポスバスターズが72%、ディ―スパークが28%。ディースパークは2003年に設立され、飲食店・デパ地下食料品業界やコンビニ業界などに特化した人材派遣・人材紹介・運営受託などを営んでいる。

社長の晴山暢彦氏は1990年にアオキインターナショナルに入社し、92年に同社最年少で店長に就任した。93年にはエリアマネジャーに昇進。その後ゾーンマネジャー、新規事業部責任者を歴任し、2003年にディースパークを設立した。

晴山氏は人材ビジネスを展開する一方で、企業育成にも取り組み、フードコート特化型の海鮮丼チェーン、内装工事会社などをIPO準備段階まで引き上げて、売却してきた。12年に設立したネットスーパー専門の運送会社は、受託先をイオンやライフ、マルエツ、カスミなど50店舗まで拡大し、昨年に売却した。

成約案件で多い飲食業態はイタリアン、和食、エスニック

こうして築き上げた育成ノウハウをテンポスバスターズが保有する飲食企業ネットワークと連携して、M&Aアドバイザリー業務に投入している。他のアドバイザリー会社との違いは、人材へのアプローチから着手することだという。

「当社はヒトというファクターからクライアント企業に関わりはじめます。今はモノやカネは余っていて、上場企業でも困っているリソースはヒトです。飲食チェーンの場合、人手不足で営業時間の縮小や店舗の閉鎖に追い込まれています。我々は本業であるヒトの強化から入って、M&Aにつなげています」。

売却希望企業の多くが店舗数3~5店規模の飲食企業で、売却動機は後継者不在が多い。

イタリアン、エスニック、和食などの業態で、すでに9件を成約させた。対象業態について営業部長の剱路幸氏は「中華料理店は案件として出てきません。中華料理店はオーナー同士のネットワークができていて、オーナー同士で多くのM&Aが成立しているようです」と説明する。

当初は後継者の紹介を依頼されるケースもあるが、「2~3年先の経営環境は見通せても5~10年は見通せない」(晴山氏)などの理由で後継者はなかなか見つからず、M&Aに行き着いている。

事業の絞り込みで尖らせ企業価値を向上させる

売却条件に雇用継続を盛り込む企業が増加した

成約の可否は「売り手側と買い手側の希望に2倍以上の開きがあることも少なくない」(剱氏)という価格の折り合いだけでなく、買収後の展開を描けるかどうかに、大きく左右される。晴山氏は次にように説明する。

「一般に、純資産に2~3年分の営業利益を加算した額を算定しますが、それ以上の価格で売りたいと希望する経営者もいます。買い手にとっては、相場以上の価格で買収しても、それ以上の企業価値を創出できるかどうかが重要です。現在の利回りよりも、たとえば3店舗を買収してから20店舗に拡大できる戦略を描けるかどうかで、マッチングが決まる傾向にあります」。

売却側にとっては、従業員の処遇も気がかりで、雇用継続を売却の条件に盛り込む例も多い。たとえ人手不足がつづく時世でも、これまで尽くしてくれた従業員が余剰人員に扱われないかと不安がよぎるのだ。

「売り手側の経営者は、新しい経営体制のもとで従業員の給料や役職が保障されて、末永く幸せに働きつづけられる企業にお渡ししたいという意向を持っていると思います。買い手には雇用や処遇で波風を立てないほうがよいことを助言しています。私も複数の企業を譲渡した経験がありますが、どの案件でも、当初1年間は従業員の給料を現状維持にしていただくことを条件にしました。2年目以降は、売却先の人事評価制度に従って変更していただいて結構ですが、1年目は従業員が不安を抱かずに働けるようにと留意したのです」(晴山氏)。

ランチェスター戦略で業態・メニューを絞り込む

成約には意外なハードルも潜んでいる。契約当事者の経営権が変更された場合に契約を解除できるチェンジ・オブ・コントロール条項だ。同社にはこんなケースがあった。大手不動産企業系列のホテルに入居していた飲食店の売却が合意に達したのだが、チェンジ・オブ・コントロール条項によって、経営権が変更するならテナント契約を解除すると申し渡され、M&Aを断念せざるをえなくなったのだ。

しかも物件オーナーは、テナントの買収側が上場企業だから承諾するとは限らない。剱氏は「上場企業でも風評が芳しくなければ、その傘下がテナントに入ることを嫌がるオーナーがいます」と打ち明ける。

同社が手がけるM&Aには、晴山氏が保有する事業再生ノウハウが注入される。晴山氏はNPO法人ランチェスター協会公認インストラクター資格をもち、ランチェスター戦略によって事業を絞り込んで、企業価値を向上させる手法に精通している。

「事業カテゴリーを絞り込んで、尖った企業に変えたほうが価値は上がります。メニュー数が20種類ある飲食店なら10種類に絞り込むとか、複数の業態を展開していたら当たっている業態に絞り込むとか、やめる勇気をもつことが大切です」。

小規模飲食店のM&Aに、ランチェスター戦略で企業価値を高めるという手法を取り入れたテンポジンパーソナルエージェントには、外食市場の底上げを期待したい。

インタビュアー
経済ジャーナリスト 小野 貴史